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[再掲載]第1回データスタジアム×レッズプレス!!座談会

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[再掲載]第1回データスタジアム×レッズプレス!!座談会

2014年シーズンに向けての準備を着実に進めている浦和レッズ。選手たちからは「ミシャサッカーの浸透」という言葉が聞かれる。また、日々、練習を観察している番記者たちも、そうした実感は得ている。

しかし、ミシャ体制1年目の2012年シーズンが3位だったのに対し、2013年シーズンは6位と、順位の上では「後退」という結果になった。そこで、選手や番記者の主観を抜きに、データ上はどうだったのか? Jリーグの、さまざまなデータを分析しているデータスタジアムに、浦和レッズの13年データ分析と、過去のデータから見える14年の展望を聞いた。

2014年2月4日〜6日にコラムコーナー「REDSPRESS EYES」で掲載した記事を再構成しました。

対談には、『レッズプレス!!』から河野正記者、佐藤亮太記者、有賀久子記者の3人(以下、全て「RP」と表記)と、データスタジアムから滝川有伸さん(以下、全て「DS」と表記)が参加しました。


選手データから見えるミシャサッカーの特徴

RP:今回はデータ分析、および、対談に参加していただき、ありがとうございます。

DS:こちらこそ、よろしくお願いします。早速ですが、浦和レッズ所属選手の「スタッツ」(※データ、成績などの意)を集計しましたので、見てください。

RP:おおっ!

得点
アシスト
シュート
パス
スルーパス
クロス
ドリブル
空中戦(敵陣)
空中戦(自陣)
タックル
インターセプト

DS:得点 」は『レッズプレス!!』でも掲載されていますし、リーグ全体のランキングもご存じと思うので割愛します。次に「アシスト 」ですが、柏木陽介選手の12は、リーグトップの数値となっています。

RP:リーグ全体の2位以下の選手を教えてください。

DS:2位は11アシストで、川崎フロンターレのレナト選手と、柏レイソルの田中順也選手。4位は10アシストで、サンフレッチェ広島の高萩洋次郎選手、FC東京の長谷川アーリアジャスール選手となっています。

RP:得点 」と「アシスト 」は、どういった種類のプレーか想像できるのですが、残りのデータに関しては補足をお願いします。

DS:まず、「シュート 」はシュート数と、その成功率です。1トップの興梠慎三選手よりも、2シャドーの柏木選手と原口元気選手の方が多いことが特徴ですね。あと、槙野智章選手のシュート数は、DFの中では突出しています。

RP:興梠選手は、データからも指摘される通り、「何が何でも自分で打つ」というタイプではなく、必要であればパスを選択できるタイプですね。あと、槙野選手は……(笑)。やはり、そうでしたか。

RP:ドリブル 」は、予想通り、原口選手の数値が高い。ただ、左サイドの槙野選手と、右サイドの森脇良太選手では、数値に差が開いています。両サイドともバランスよく、攻撃参加できていた印象なのですが……。

DS:ドリブル 」は、定義について補足すべき点が多いですね。まず、相手と対峙(たいじ)した場合に発生するプレーということです。1対1での「仕掛け」と考えてください。そして、次のプレーができれば成功となります。相手を抜き去らなくても、フェイントで横にズレて攻撃的なプレーを行った場合も成功としています。森脇選手に関しては、1対1の状況となる前にパスを出せているのではと思います。

RP:原口選手の「ドリブル 」はリーグ全体から見て、どうでしょうか?

DS:ドリブルの回数で言えば、原口選手はリーグ6位ですね。なお、成功率は、平均が約50パーセント。梅崎司選手や平川忠亮選手は高い方ですね。

RP:パス 」の数値は高いですね。

DS:パス 」はパスの回数と成功率なのですが、合計のパス回数はリーグでも上位となります。「スルーパス 」は、「意図を持って、相手のオフサイドラインの裏に出したパス」としています。また、ボールの高さは選手の身長以下としています。

RP:このデータからも、柏木選手が攻撃の起点となっていたことが証明できますね。成功率は高い方なのですか?

DS:成功の定義を説明すると、味方にボールが渡れば成功となるのですが、成功率に関しては平均をやや下回っています。

RP:クロス 」についてはどうでしょうか?

DS:まず、「クロス 」にはCKなど、セットプレーの数値は含まれていません。そして、先に味方がボールに触れば、成功となります。浦和は、チームの総数として、「クロス 」が少なめです。ただ、平川選手の成功率は高い方ですね。

RP:梅崎選手の成功率が低いのですが、これは意外です。チャンスを作っている印象なのですが……。

DS:確かに、梅崎選手の成功率は低い方ですが、クロスからのアシスト数は少なくありません。

RP:成功率は低いのは、「通れば1点」のような内容だったから?

DS:選手がチャレンジをしているかどうかは、数値としては出しにくい部分ですが、おそらく、そうではないかと思います。また、味方選手が、「空中戦(敵陣) 」に勝てるかも重要となります。空中戦の定義は、両者が空中に浮くプレーで、ボールに触れた方が勝利となります。

RP:興梠選手が最前線で体を張っているという印象通りです。

DS:ただ、チーム全体としては少ない方ですね。ちなみに、チーム戦術も影響していると思われますが、リーグトップのサガン鳥栖・豊田陽平選手は、興梠選手の約5倍、400回以上、敵陣で空中戦を行っています。

RP:チームの戦術によって、そこまで違うのですね。

DS:はい。そのため、どの数値が高いから優れた選手だとは、一概に評価できないのです。

浦和の守備における問題点

DS:空中戦(自陣) 」は、「空中戦(敵陣) 」とは裏返しのデータとなります。なお、空中戦の勝率に関しては、身長とほぼ比例しています。チームNo.1の那須大亮選手のスタッツ、63パーセントは悪くない数字ですが、横浜F・マリノスの中澤佑二選手などは、70パーセントを超えているので、課題の1つではあると思います。

RP:タックル 」はどうでしょうか?

DS:タックル 」は、相手のボールを蹴りだし、自軍のボールとなったら成功となります。平均は約75パーセントです。

RP:原口選手の成功率が低いですね。

DS:タックルの成功の内訳は、タックルをした選手自身がボールをキープした場合と味方の選手がこぼれ球を拾ってくれた場合に大きくは分かれます。この数値だけでは、原口選手のタックルの方法が悪いのか、周りの選手のフォローが悪いのか、判断することはできません。

RP:チーム全体としては、どうでしょうか?

DS:下から4番目の数値ですね。ただし、チーム戦術の問題もあるので、多ければ多いほど良いとは限らないですが。

RP:インターセプト 」も少ないのでしょうか?

DS:12年に比べると増えてはいるのですが、それでもリーグ全体で見ると中位ですね。なお、「インターセプト 」は単に相手のパスをカットしただけでなく、能動的な「読み」を行っていることが条件なので、数値のカウントは厳しめになっています。

RP:ちなみに、守備のスタッツが高いチームはどこなのでしょうか?

DS:アルビレックス新潟は、「タックル 」や「インターセプト 」の数値が高いですね。しかし、リーグ最少失点だった広島が、それほど高い数値ではなかったことにも留意する必要があります。

RP:新潟ですか。昨季、新潟に期限付き移籍していた濱田水輝選手も、守備練習がハードだったと言っていましたね。そのほか、浦和の守備の問題点が分かるスタッツはあるのでしょうか?

被シュート数ランキング

DS:浦和は「被シュート数」が335。これはリーグで5番目に少ない数値です。そのため、「シュートブロック」をする機会も少ないのですが、それにしても、36は少なすぎるという印象です。リーグ平均は64で、36はリーグ最下位。「シュートブロック率」も10.7パーセントで最下位です。

RP:これは興味深い数値ですね。

DS:しかし、「シュートブロック率」の1位は名古屋グランパスで、2位はジュビロ磐田。3位は湘南ベルマーレとなっています。この数値が高ければ良いとは限らないようです。

浦和と広島の守備を比較

RP:それでも、「シュートブロック率」の低さは気になります。

DS:データ上は、広島の選手と比較しても、選手1人1人の「シュートブロック」数が極端に少ない、ということはありません。むしろ、打たれるシュートの「質」に問題があるようです。

RP:具体的には、どのようなデータがあるのでしょうか?


DS:12年シーズンと13年シーズンの浦和を比較すると、「被シュート数」は減少しています。しかし、ペナルティエリア内で打たれるシュートの割合が増えています。その結果、「枠内シュート」を打たれる確率が上昇し、同時に「決定率」も16.4パーセントまで上昇しています。つまり、相手チームからすると、「シュートを打てば入る」ということになります。

RP:確かに、「シュートブロック」以前の問題として、フリーでシュートを打たれるケースが多かったような気がします。


DS:なお、広島は、11年から12年で、被シュート数が激減しています。また、ペナルティエリア内で打たれるシュートも減っています。そして、浦和と決定的に違うのは、セットプレーからの失点です。

RP:13年シーズン、セットプレーからの失点が広島は3に対し、浦和は14ですか。

DS:「セットプレーからの失点」の定義は、PKを除いたセットプレーから、3プレー以内に決められたシュートとなります。浦和も「被シュート数」は減ってきていますが、それでも、広島の方が少ない。

RP:広島は森保一監督になってから、守備練習に力を入れているようです。浦和も、今年から守備練習を行っているので、効果を期待したいですね。

DS:また、広島は年々、ボール奪取の位置が前方になってきています。これも、データから分かる、広島の変化となっています。

ボール奪取位置の変化

選手の発言を考察

RP:攻めている時間が長いので、カウンター攻撃を受けた時に、守備の人数が足りなくなる。そのため、フリーでシュートを打たれてしまう。データから、そうした浦和の問題点が明らかになってきました。確かに、守備の方法にも問題あると思うのですが、それ以上に、終盤で失点を喫したり、連続で失点を喫したり……。これは気のせいなのでしょうか?


DS:それは、データでの裏付けが可能です。「86分から試合終了までの失点ランキング」を見てください。浦和は試合終盤での失点が最も多いことが分かります。また、総失点に対する割合も最も高い。一方で広島は、僅か1失点。総失点が少ないチームは、この時間帯の失点も少ない傾向があります。

RP:終盤に失点を喫する傾向は、データでも明らかなのですね。また、選手たちは「失点が安い」と口にしています。また、興梠選手は「鹿島では、こんなに連続失点を喫することはなかった」とも言っています。こうした発言を裏付けるデータもあるのでしょうか?


DS:「失点の間隔別失点数(45分間内での失点が対象)」を見てください。浦和は、失点から3分以内に再び失点を喫した回数が4回、6分以内だと9回。これはリーグで最も多い回数。短時間で失点する傾向があったのは明らかです。

RP:これは衝撃的なデータですね。横浜FMや鹿島アントラーズ、新潟は、失点を喫してから6分以内に、再び失点を喫していない。

DS:失点数が多いチームは、どうしても次の失点までの間隔が短くなってしまうのですが、最多失点を喫した大分トリニータなどに比べても、明らかに多いですね。

RP:柏木選手は「悪い時は左からばかり攻撃している」と発言しています。これを裏付けるデータはあるのでしょうか?

DS:「悪い時」の定義が難しいのですが……。例えば、リードされている場面、あるいは、点数が取れない状況などと仮定してデータを分析したのですが、こうした時間帯でも、ボールタッチの場所などは左右のバランスが取れている。むしろ、右から攻撃していることが多いとのデータが出ました。

RP:左サイドの選手の方が「ドリブル」の回数が多いため、そういう印象が強いのかもしれませんね。

2014年新加入選手

RP:マルシオリシャルデス選手が離脱しています。13年シーズン終盤、マルシオリシャルデス選手の離脱がチームにとって痛手だったと思うのですが……。

DS:それは「途中出場時のゴールランキング」でも明らかですね。


RP:FC東京の平山相太選手と並んで1位。惜しいシュートが多かったという印象ですが、決定力も高い。

DS:どのような場面でゴールを決めたか、あるいは外したか。そうした印象は、データでは反映しにくい部分となっています。

RP:マルシオ選手は前半戦での復帰が絶望的です。そうなると、李忠成選手の起用方法も気になります。

DS:11年の広島での成績と、13年の浦和の攻撃的な選手が残した成績と比較してみました。簡単に特徴を挙げてみます。


・1トップとシャドーのどちらもやっていた。
・ペナルティエリア外からのシュートがある。
・原口選手と似たタイプだが、パサー寄り。
・身長が高く、空中戦が多い。(※クロス受け数が突出している、広島MFミキッチの存在も考慮する必要あり)

RP:練習を見て、意外と器用な選手だと思ったのですが、それがデータでも分かりますね。3人の特徴を足したような選手……。

DS:11年と同じような活躍ができれば、大きな戦力になりそうですね。先発だけでなく、マルシオ選手の代わりとしてスーパーサブとして活躍も期待できそうです。

RP:14年、大宮アルディージャから青木拓矢選手が加入しました。青木選手は1次合宿で負傷したため、その起用方法が明らかではないのですが、データから分析すると、どのような選手なのでしょうか?

DS:浦和の選手と、大宮での青木選手のデータを比較してみましょう。青木選手のシュート数は、鈴木啓太選手と比べて圧倒的に多いことが分かります。ゴール数はボランチの鈴木選手、PKを除いた阿部選手よりも多い。シュート枠内率はシュートの少ない鈴木選手を除けば、最も高い数値となっています。


RP:攻撃的なイメージですね。

DS:チーム戦術の違いはあると思うのですが、守備面での特徴を挙げると、青木選手はボランチの鈴木選手と阿部選手よりタックル数やブロック数が圧倒的に多く、対人や至近距離での守備機会が多い傾向があります。槙野選手や森脇選手と比べるとファウルや警告が少ない傾向。空中戦の回数は少ないですが、競り合った際の勝率は高い方となっています。


RP:そう考えると、鈴木選手とのポジション争いになりそうですね。データ上は青木選手が有利ですが、鈴木選手はミシャサッカーで、輝きを取り戻した印象が強い。そう簡単にレギュラー奪取とはならないような気がしますが……。

DS:実は、鈴木選手のような「気の利いたプレー」は、データとしては出しにくい部分となっています。プレーエリアは分かっても、ポジショニングの良さは数値としては出せないのです。

RP:なるほど。最後に、西川周作選手は、加藤順大選手や山岸範宏選手と比べて、どうでしょうか?

DS:3人のデータを比較すると、数値には大差がありません。試合数も違うので一概には比較できないのですが、例えば、フィード成功率は、山岸選手の方が高くなっています。

RP:データ上は、西川選手が正GKになれるとは限らない、ということですね。

DS:日本代表ですし、ゴール前での存在感はあると思うのですが、こうした存在感は数値に出せないのです。また、広島の失点数は少ないのですが、そもそも「被シュート」が少ない。例えば、「被シュート」と「セーブ」の数値が高く、失点が少ないチームのGK、セレッソ大阪のキムジンヒョン選手のような数値が出れば、「GKのおかげで失点が減った」との結論も出せるのですが……。

RP:浦和の場合は、GKの「セーブ」よりも、まずは、フリーでシュートを打たせない守備の構築が重要な課題ですからね。そうしたコーチング能力が、GKのレギュラー争いのカギになる、ということですね。

2014年に向けた課題(試合運び)

RP:13年シーズンのデータ分析から判明した、14年の課題などはあるのでしょうか?

DS:年間で得点の多いチームと少ないチームで2グループに分け、この2グループのチームと対戦した際の失点を集計するという方法での分析が、浦和の特徴を表しています。


RP:これは、面白い分析方法ですね。

DS:大宮のように、シーズンの前半と後半では戦い方が異なるチームもあるため、より正確を期すためには、時期なども分けた方が良いのですが、浦和の場合は通年のデータでも、課題が明らかになっています。

RP:詳しい解説をお願いします。

DS:浦和は6番目に失点が多いチームなのですが、得点力のあるチームとの対戦での失点は最も多くなっています。これは、得点力のないチームとの対戦ではそこそこ守れるが、得点力のあるチームとの対戦では守備が持たない傾向が強いことを表しています。ポジティブに考えれば、守備的に戦わず撃ち合いも覚悟した戦い方をしていると言えます。


RP:確かに、相手チームに合わせるという戦い方はしませんでしたね。

DS:また、この2グループのチームと対戦した際の勝敗を分析しますと、浦和は上位チームと比べ、やはり、もう一歩の成績となっています。得点力のあるチームに対して7勝は悪くない数字ですが、横浜FMの9勝には及ばない。7敗は多い方なので、ここを引き分けか勝ちに持っていければ、もっと上位が狙えたと思われます。また、得点力のないチームに10勝も悪くない成績ですが、広島の13勝や川崎Fの12勝には及ばない。負け数3は悪くないので5分けを勝ちに持っていければもっと上位が狙えたと言えます。


RP:最多得点こそ記録したが、攻撃力のあるチームとの打ち合いで必ず勝てたわけでもないし、守備が固いチームから確実に得点を奪えたとも言えない。どうやら、想像していた以上に、課題が多いようですね。

データ集計の苦労

RP:これだけのデータがあれば、例えば、順位予想などもできるような気がしますね。

DS:サッカーは同じ対戦相手も、1年に2回しか戦わないため、良いサッカーをしていたが、簡単なミスで失点を喫して負けてしまうなど、偶然の要素も強く、順位予想は難しくなっています。

RP:確かに、今回の座談会で、データだけでは分からない部分が多いことも理解できました。

DS:浦和の場合は、常に同じフォーメーションで戦っているため、比較的、分析をしやすいのですが、頻繁にフォーメーションを変えるチームは、分析も難しくなっています。

RP:それにしても、今回はこちらの疑問に答えるべく、さまざまなデータ分析をしていただき、ありがとうございました。いただいたデータは、今後の取材に生かしたいと思います。

第2回データスタジアム×レッズプレス!!座談会(全4回)
第2回データスタジアム×レッズプレス!!座談会(4)
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