「REDSインタビュー」はトップチームを中心に、選手や監督、スタッフ、関係者の話を深掘りし、その言葉を届けるコーナーである。
今回は、昨シーズン限りで選手生活から退き、現在、J3リーグのザスパ群馬で代表取締役社長を務める細貝萌さんが登場。
J3リーグ第31節・ヴァンラーレ八戸戦が行われる10月12日(日)は、『ザスパ群馬Jリーグ加盟20周年記〜夢と誇りの物語〜』と題し、イベントが開催される。試合前には、ザスパ群馬がJリーグ加盟当時の【2005ザスパ草津OB】と、細貝社長に縁のある選手たちを招いての【細貝フレンズ】で、メモリアルマッチが開催される。
細貝フレンズのメンバーは、細貝社長がプロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせた浦和レッズのOB選手が多い。ということで、レッズプレス!!で当時を振り返りながらの特別インタビューが実現した。
[REDSインタビュー]ザスパ群馬・細貝萌社長、12日の20周年イベントを前に自身の思いや『細貝フレンズ』を語る
[イベント]
ザスパ群馬Jリーグ加盟20周年記〜夢と誇りの物語〜
『世代をつなぐ一戦! メモリアルマッチ』
https://thespa.co.jp/lp/2025/20th/
2005ザスパ草津OB 対 細貝フレンズ
アースケア敷島サッカー・ラグビー場(ホーム・正田醤油スタジアム群馬に隣接)
10時キックオフ(開門:8時30分予定)
12分ハーフ/1試合
観覧:八戸戦の観戦チケットをお持ちの方に限る
RP:『世代をつなぐ一戦! メモリアルマッチ』の開催が迫ってきました。
細貝:イベントを開催するにあたり、当然ながら、だいぶ前から準備を進めてきました。両チーム、これだけの方々が来て頂ける事は、僕にとってもとても嬉しいですし、ザスパ群馬の20周年ということで、ザスパを応援して下さる皆様にとっても楽しんでもらえるかなと思っています。
RP:当時は『ザスパ草津』というクラブ名で2005年にJリーグに加盟しました。この2005年というのは、細貝さんのプロサッカー選手としてのキャリア1年目と重なりますね。
細貝:そうなんですよ。まさに、僕がプロのサッカー選手になったのが2005年で。僕自身、勝手にとても縁を感じていますし、その中で、今、立場が選手から代表取締役社長に変わったことも運命的なところを感じているというのが正直なところですね。
RP:まず、プロでどのように活躍していくかという部分で、特に2005年は、自身のことに集中していたと思うのですが、今回、【細貝フレンズ】のメンバーには、大きな壁として立ちはだかった鈴木啓太さんをはじめ、レッズサポーターに馴染みのある選手が多いですね。
細貝:前橋育英高校を卒業してから、浦和レッズに加入しました。プロのサッカー選手になって最初の6シーズンを浦和で過ごして、サッカー選手としての土台、『細貝萌』というモノは、もう全て浦和にいる頃に作ってもらったと思っています。
プロサッカー選手がどういったものか、であったり、在籍中に日本代表のメンバーに入ることも出来ました。浦和で育ってきたからこそ、その先の自分、ヨーロッパでのキャリアに始まり、アジアに出たり、また日本に戻ってきて、昨シーズンまでザスパ群馬でプレーし、今、こうした立場にいるのも、キャリアの最初の6シーズンで過ごした浦和での時間があったからだと思っています。
今回、特に鈴木啓太さんや坪井慶介さんは、僕の若い頃にバリバリの日本代表の選手たちで、こういった選手たちから、多くのモノを学んできました。今回のイベントを通じて、改めて、浦和在籍時、自分が、サッカー選手として成長したいと思いながらも、なかなか試合に出られなかったり、素晴らしい選手に囲まれながら悩んだり、あの時をまた思い出すことが出来るというか、そういった気持ちになるのは、もう間違いないですね。
RP:あの頃の鈴木啓太さんは、細貝さんにとって、どんな存在でしたか?
細貝:いろいろな機会で、僕も鈴木啓太さんの名前を出して話をしてきましたが、改めて振り返ると、プロサッカー選手になったタイミングで、一番最初に気にかけてくれたのは啓太さんでした。
たとえば、浦和レッズに加入して最初のキャンプで同部屋だったり。また、加入してから数ヶ月が経っての3月に一度、高校の卒業式のためにチームを離れて地元に戻るじゃないですか。その時点でもう、啓太さんには、何度も何度も食事に連れて行ってもらっていて。僕が覚えているのは、高校の卒業式だけのために前橋に戻った時に、同級生から「鈴木啓太さんとメシに行ったらしいじゃん」みたいな。「行って、どうだったの?」みたいに質問攻めにあったり。
早くして、気に掛けて下さっていた先輩で、しかも、同じポジション。だからこそ、目標としていたし、プライベートもそうだし、要は、サッカー以外のことも数多く学ばせてもらった先輩です。学んだのと同時に、鈴木啓太さんみたいになりたいと思った、憧れの人ですね。
今、僕が思うのは、同じポジションで、啓太さんからすると、5歳年下の選手が来たとて、自身は、U-23日本代表として戦っていて、これからフル代表を目指していく、その先には、海外からも声が掛かる可能性が高い選手であったにも関わらず、とても気にかけてくれました。
僕なんて、能力的にはライバルとは思っていなかったと思うけれども、プロとして戦う上で、同じポジションの選手を可愛がることって、よくあるようで、実はそんなにない、と思うんですよ。だけど、その中でも、僕を気に掛けて下さっていたというのは、僕にとっては本当に嬉しかったですし、啓太さんと一緒に生活を共にすることで、サッカー選手が普段どういった姿勢でいるべきか、どういった人たちとの人脈を作っていくべきか、を知ることが出来ました。
サッカー以外のコミュニティ、ネットワークというのは、啓太さんから学んだことで、僕も自然とサッカー業界以外のジャンルの場に出て、今でもいろいろと友人がいたり、お世話になっている方がいるのは、間違いなく、啓太さんのおかげなんです。
RP:今、2人の年齢は、5歳差だったのだと驚きました。当時の2人はキャリアの差であったり、積み重ねてきたモノの違いというか、細貝選手にとって、啓太選手は間違いなく大きな壁であり、毎日そこにチャレンジする細貝選手の姿、負けないぞという気持ちを持って挑んでいた姿が思い出されます。そんな細貝選手の闘う姿に、当時、レッズサポーターの皆さんは、細貝萌を応援したいと感じたのだと思います。
細貝:そうなんですよ。啓太さんとは、実は5歳しか違っていなくて。でも、僕にとってはとんでもない壁で、当時の鈴木啓太さんって、個性あふれるメンバーの中で主軸としてやっていて。見た目も格好良くて、という状態だったんで、啓太さんと自分の差って、もう圧倒的な差でした。
僕は、啓太さんの背中を本当に追い掛けていたというか。言うまでもなく、その啓太さんの横には長谷部誠さんがいて、後ろには闘莉王さんがいて、とか。とんでもないメンバーに囲まれていたけれども、その中でも、啓太さんと食事に行く機会とかが多かったから、ただただ憧れている先輩というような感覚ではありましたけどね。
RP:それでも、当時の細貝選手が、試合に出られない現状があったとしても、決して「先輩たちが凄すぎるから」とかを理由にしていなかったところ、常に負けないぞ!という姿勢を持って練習に臨んでいたこと、細貝さんの気持ちのベースになる部分は、前橋育英高校時代であったり、あるいは、もっと子供の頃からの群馬で育った環境が作ったのかなと思って、当時から見ていました。
細貝:僕の性格上、普段は、そんなにワーワーしていない方だと思うんですけど、小さい頃から負けず嫌いだと自分でも思ってきたし、僕には、3つ歳上の兄が2人いるので、その兄たちに負けたくないという気持ちで、小さい頃からずっとサッカーをやってきました。そこのベースは少なからず、高いところにあったというか、負けたくないという『欲』だけは、常に持っていました。当然、親から授かった運動能力などの才能とか、そういうのもあるけれども、負けたくない気持ち、欲というのは、自分のストロングポイントの1つかなと思って、学生時代もやってきました。
その思いがないと、浦和レッズで、しっかりと結果を残すことは厳しいし、浦和レッズで試合に出るって、他のクラブで試合に出るのとは訳が違うので、そう簡単じゃないし、当然、僕はそこからオリンピックに行ったり、A代表に入ったりとステージをあげることが出来ました。それって、自分のベースがないと入っていけないものだと思うので、そこに関しては、自分の強みの1つだったのかなとは思います。
RP:当時の細貝さんの振る舞いを知るだけに、以降、たくさんの高卒ルーキーであったり、ユースから昇格した選手を見てきましたが、細貝萌選手という、試合に出られないことを簡単に納得することなく、そして自分以外にその理由をぶつけずに、練習から100%で戦ってきた選手がいたんだぞ、と振り返ることがありました。
細貝:今は、Jリーグクラブの社長という立場なので、数字を見る機会が多く、よく考えるのですが、浦和レッズという100億を超える規模の中で、コンスタントに試合に出るというのは難しいことだと思います。それはなぜかと言うと、当然、素晴らしい選手が海外クラブから来る、国内で活躍した選手が来る、若くて有望の選手がたくさん来る、という中で、コンスタントに試合に出るというのはそう簡単じゃないし、どうにか試合に出るチャンスをモノにする必要があります。また、多くの選手がそれまでは日本人監督のもとでプレーすると思いますが、外国籍の監督と一緒に仕事をする機会も増えると思います。そういった海外の目線を持っている方に評価してもらいながら試合に出ていく、というのは、外から見ていると、試合に出ている、出ていないで終わるけれども、実は、そういうものではないんですね。中にいると、壁があって、いろいろなモノを乗り越えていかなきゃいけなかったり、難しいんです。そうした中で、チャンスをつかむことが出来たので、僕にとってサッカーを20年間続けてきた中で、これ以上にない素晴らしい6シーズンだったな、とは思います。
RP:今回の【細貝フレンズ】のメンバーを見ると、たとえば、坪井慶介さんは、細貝さんが強化指定選手で練習に参加していた頃であったり、加入したての頃は、日本代表戦で負った怪我からの復帰にむけて懸命にコンディションを上げていた時期に重なるかなと思うのですが、そうした先輩方の姿というのは、どう映っていましたか?
細貝:学ぶことしかありませんでした。これは、浦和レッズという環境が学びそのものでしたね。たとえば、怪我をした選手からは、リハビリの時の精神的なところだったり、取り組む姿勢だったり。毎日、ロッカーで話をすれば、その普段の日常生活から学ぶことも多かったです。これは全てのことで、家族の話も、買い物の話も、食事の話もそう。これには、当然、お金の話も関わってきて、学ぶことしかなかったですよね。それを自分に置き換えて、何が合っていて、自分はどんなタイプで、というのを構築していく最高の環境だったなと思っています。
RP:また、【細貝フレンズ】には、もう1人、中心人物がいますね。現在、東海リーグ1部リーグの岳南Fモスペリオで代表取締役を担っている同期の赤星貴文さん。アカも参加しますね。
細貝:同期の中で一番連絡を取っていて。親友の1人でもあるし、そういった選手とサッカーやる機会って、あるようで全くないので。正直、今の僕にはサッカーする時間はなくて、今回こういった機会があることはすごく嬉しく思っています。
今回、なぜ、こうしたイベントを開催するのかというと、今年がザスパ群馬のJリーグ加盟から20周年ということで、2005年当時のザスパのメンバーにも来て頂くんですけど、ザスパを昔から支えて下さっている方々やファン・サポーターもそうですし、逆に、ここ数年でザスパを応援して下さるようになった方もそうですけど、この20年間で、クラブとして多くのモノを積み重ねてきました。
いろいろな努力をして、うまくいったり、いかなかったり、今でも、課題は山積みです。でも、そういった積み重ねがあるからこその今だと思うんです。たとえば、今、なかなかうまくいっていない時期ではありますけど、たとえば、5年後には、“あの時があったから……”って言いたいですし、今、いろいろと苦労していますが、それでも前を見ていかなければならないですし、そのためには手を抜かずに、やれることをやっていくしかないと思っています。
なかなか外から見ているだけでは分からないことや、選手の立場では分からなかったことばかり。毎日、何かが起きて、日々、その問題と向き合って、解決するために意見を言ったり、曲げずに意思を通すこともあれば、逆に、あ、そういう発想があるんだったら、そっちのほうが良いね、と仲間と共有することもあります。
結局、今、この時間というのは、過去があっての今ですし、今、自分がどう過ごすかで、この先の、これからの未来に関わってくるので、それをしっかりと繋いでいくような、そういった時間になれば、と思っています。
あとは、とにかく、来て頂く方に、少しでも楽しんでもらいたいと思っています。ゲームする時間は12分ハーフと短いですが、その後に行われるサッカー教室であったり、両チームのOBたちのプレーはもちろんですけど、鈴木啓太さんだ!とか、坪井慶介さんだ!とか、とにかく生で動く彼らを見て喜んで頂きたいと思っています。
RP:レッズサポーターへメッセージを
細貝:是非、浦和レッズのサポーターの皆さんにも、たくさんの方に来て頂きたいです。浦和レッズのOB選手たちもいますので。おそらく、集まってくれるOBの皆さんとサポーターの皆さんは、結構、会う機会があるかなとは思うんですけど(笑)、僕のことは気にせずに、浦和OBの皆さんのプレーで楽しんでもらいたいですし、その後、14時キックオフのヴァンラーレ八戸戦もご覧頂きたいと思います。
RP:細貝さんが、代表取締役社長という立場で、全ての時間を注いで、クラブのために動いていること、チームの成績は、今、もがいているかもしれないけれども、1つでも上の順位を目指している様子は、ザスパ群馬サポーターにも、浦和レッズサポーターにも伝わっていると思います。今回の20周年イベント。こうしたザスパ群馬の歴史を感じられる1日をどんな風に楽しんでもらいたいか、この1日をキッカケに、どういう姿をこれから見せていきたいですか?
細貝:サッカークラブなので、当然、結果が全てだというのは、僕も選手だったので分かっています。だからこそ、結果を出したいと思っています。とはいえ、今、社長であって、会社の事に目を向けなければならない。当たり前ですけど、経営的な部分もそうです、人との関係もそうですけど、そういったモノを築いていかなければなりません。
たとえば、知名度があるからどうとか、そういうのは正直、関係ありません。多少、皆さんが僕のことを知って下さっているので、進んでいきやすい部分もありますが、僕としても、今あるのは、経営者として積み上げてきた20年間ではなく、サッカー選手として積み上げた20年間ですので、イチから、いろいろと取り組んでいます。
最近思い出すのは、サッカー選手の時もそうだったな、と。
サッカー選手を目指していた頃だったり、サッカー選手になりたての頃って、「試合に出たい」「浦和レッズで試合に出たい」と言えば、周りから「出られるわけないだろ」と言われて。その前にも、高校を卒業して浦和レッズに行くんだと決めた時には「いやいや、なんで、あんなメンバーがいる浦和に行くんだよ」「他のチームに行った方が良いだろ」と言われたり。「日本代表になりたい」と言えば、「いやいや、日本代表なんて無理だよ」と言われて。「世界屈指のリーグで、自分の存在価値を出したい」と口にすれば、「いやいや、お前には無理だ」という風に言われてきました。
もちろん、応援して下さる方もたくさんいましたが、そういうネガティブな意見もたくさんあったので、今も、ちょっと同じような感じなのかなと思っています。でも、これは当たり前のことだと思うんです。ただ、そこで、自分の『欲』まで欠けてしまったら、それこそ、そこで終わりだと思っています。自分のサッカー人生を振り返るとずっと『欲』はあったんですよね。
それこそヨーロッパに行った時には、自分が理想としているところとは、だいぶ、かけ離れてしまったサッカー選手としての生活だったんです。でも、欲があったからこそ、どうにか、これぐらいまではやれてきました。だから、今も自分の欲というのを最大限に持ち続けていかなければならないな、と思っています。
そういった状況を前に、自分はブレる事なく進んでいく、ということがまず1つと。その中で、12日(日)のイベントに関しては、とにかく、たくさんの方が、あ!鈴木啓太がいる!あ!坪井慶介がいる!柏木が、宇賀神が、ボレーシュートを決めた李忠成がいる!という、そういう楽しそうな反応がたくさん聞けたら良いですし、たくさんの笑顔が見られたら良いなと思っています。是非、多くの方に楽しんで頂きたいですし、その後の公式戦でも、サッカークラブとして良い結果を届けることが出来るように、自分自身も頑張っていきますし、選手たちをしっかりとサポートしていきたいと思います。
(聞き手:レッズプレス!!有賀久子)
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