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[REDSインタビュー]神戸慎太郎監督〜トップ、ユース、ジュニアユースが同じ絵を描けるような育成を図る〜

「REDSインタビュー」は、トップチームやレディースの選手、監督、スタッフ、関係者などのインタビューを掲載するコーナー。今回は三菱重工浦和レッズレディースユースの神戸慎太郎監督に、指導方針や育成面での、中・長期的なビジョンなどをビデオ通話アプリ「Zoom」を使い、インタビューを行った。


(石田達也)



RP:神戸監督は1998年に三菱重工浦和レッズレディースの前身である「さいたまレイナスFC」時代から指導者として活動し、そのなかでも長い期間、「育成」に携わっております。ご自身の中でのブレない指導方針、そして選手と向き合うなかで一番大切にしているのはどんな部分でしょうか?

神戸:サッカーが上手になってもらいたいことはもちろんですが、サッカーが終わったあとの残りの人生を、1人の女性としてたくましくというか、しっかりと生活をする礎を作っていくことを大事にしています。

RP:言うなれば“人間力”のようなものですね。

神戸:そうですね。家庭を持ち、母親になる選手もいるかもしれない。いろいろなライフスキルと言いますか、そんな人間力を育てていきたいと思います。これはずっと保護者説明会の中でも話をしているのです。「人生85年として、サッカーをトップでプレーすることを35年と考えた時に、残りの50年をどう生きていくのか?」という話をさせてもらっています。

RP:現場での指導方針について教えて下さい。

神戸:まずトップに上がることを目指す。これがチームの存在意義であり、加入してくれた選手に対する強い要望です。

RP:次に現場での向き合い方について教えて下さい。

神戸:僕の歳だと、親とか、孫になってしまいますが、時には厳しく、時には冗談を口にしたりするなど、一番は「指導者と選手」という距離感よりも、「何でも質問できる、何でも言い合える」そうしたものを大切にしています。父親目線のような距離感ですね。くだらないことを言えば、オヤジギャグだなというリアクションをもらえます(笑)。

RP:現場を作っていく中で、コーチ陣にはどういったものを求めていますか?

神戸:僕では相談に乗れないこともあり、女性の指導者が増えていることで助かっている部分もあります。サッカーの質や強度を上げることも求めますが、「相談や選手の話を聞いてあげられるような存在でいてもらいたい」と強くお願いしています。

RP:ミーティングの頻度や、トップへ昇格させる時の会議の様子を教えてもらいたいのですが。

神戸:普段の環境の中でも、コーチとスタッフ陣は顔を合わせれば、ちょっとしたことでも話をしますよ。たとえばジュニアユースからユースに昇格をする時など話を重ねていますし、トップへの昇格にはトップチームのスタッフを交えて話し合いを行っています。

RP:昇格については、その子にとって人生を左右することになると思います。かなりシビアな判断を迫られると思います。

神戸:そうですね。残りの高校3年間をレッズでやった方がいいのか。一度外に出て、別のところを見て、終わった時に戻せるのか。私たちは後追いをしています。昇格ができずにショックを受ける子もいますが、大学へ行って戻ってくる子もいます。本当は全員を上げたいのですが、それが叶わなくても、「しっかりと見ています」と分かるようにしています。

RP:コロナ禍となり、指導方法も変更せざる得ない部分もあったと思いますが、その部分を教えて下さい。

神戸:コロナ禍で、どこでも苦労を強いられていると思います。レッズは関東のいろいろな地域から選手が来ています。その地域の行政によってジャッジが変わっている部分がありますし、子どもたちを含めて細心の注意を払っています。たとえば、ユースとジュニアユースの練習時間を少しズラしていますし、控室についてもタイムラグを作っています。

RP:コロナ禍で試合も中止になったと思います。選手たちの様子をどのように見ていましたか?

神戸:女の子でサッカーをやっている子は、本当にサッカーが一番というか、サッカーをプレーしたい子が多いです。コロナでグラウンドに来られない、チームとして集まることができないことを、子どもたちは「辛かった」と今でも口にしています。その辛さを考えた時に、今を大切にしたい気持ちが出ていると感じています。

RP:トレーニングでのこだわりはありますか?

神戸:森栄次総監督が持ち込んだスタイル、レディースの目指すスタイルが確立されました。そのスタイルに馴染んでいけるように育成をしています。ボールを大事にして、ショートパスを多用。ロングボールを使って、相手の背後を取る。相手の逆を突くというか、常に相手を見ながら、ボールを大事にすることを育成でも確立しています。

RP:長年、多くの選手を見てきた中で、伸びる選手の条件などがあれば、教えて下さい。

神戸:一番分かりやすいところで言えば、身体的特長です。トップのFW清家貴子選手であれば、スピードがあります。MF栗島朱里選手やMF柴田華絵選手は気が利くことです。危険な場面を消せたり、スペースを見つけ出していくことだったり、“予測”のできる選手です。

育成年代でも、ボール扱いが上手い選手は多いのですが、プラスアルファでそういうことができる選手は、決して体が大きくなくても、スピードがなくても、目にとまりますね。あとは資質の問題かもしれませんが、DF南萌華選手のようなリーダーシップが取れる選手。心が折れない選手は大事にしたいです。多少、技術が劣っていても、経験を積ませて上手にさせたいと思っています。

RP:育成年代の選手たちは、トップチームをどのように感じていると思われますか?

神戸:ハッキリと言葉では言いません。シャイと言うか、何というか(笑)。しかし憧れていますし、浦和駒場スタジアムが夢舞台で、あのピッチに立ちたいと考えていますね。トップチームが憧れの存在であることは間違いないです。トップチームのホームゲームの設営、運営補助をさせてもらっていますが、子どもたちは自分たちの試合があっても運営に行きたがります。間近で試合に関われることに喜びやモチベーションをもっています。

RP:今シーズン、ユースから3人の選手が昇格しています。トップチームには、ユース出身選手が増えています。

神戸:多くの選手をトップに昇格させてもらっているのはありがたいですし、嬉しいです。これからトップチームと近いサッカーをすることで、もっと増えるのではないかと考えます。私の夢としてはピッチに立つ11人が、ユース出身であればと思います。今は半分ほどの選手が占めていますが、さらに増えることで、ユースが目指すところになればと思います。

RP:今シーズン昇格をしたGK福田史織選手、DF河合野乃子選手、FW島田芽依選手について教えて下さい。どんなところに光った部分があったのですか?

神戸:福田選手に関しては、元々フィールドプレイヤーで、素晴らしい身体能力をもっています。GK池田咲紀子選手の背中を見て、良いものを真似してくれれば、池田選手ぐらいの年齢になったら、凄いキーパーになっていると思います。

河合選手に関しては線は細いのですが、身長もあり、スピードも備えています。両足でのフィードも可能でポテンシャルはあります。南選手のようなリーダーシップが出てくると、レギュラーになってもおかしくはない素材があります。

島田選手はパワーとスピード、そしてパンチ力のあるストライカーです。今はやみくもに足を振っていますが、トップレベルの試合でも“ここぞ”のシュートチャンスに足が振れるようになれば、良い選手になると思っています。

RP:日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が開幕しました。現場での変化など、どんなことが予想されると考えていますか?

神戸:プロ化となり、1つの職業として、そこを目指す子どもが増えると思います。明確にトップを目指そうという子が、目に見える形で変わってくると思います。

RP:女子サッカー界が前進していること、そして改善点があれば教えて下さい。

神戸:男子に近づけるようサッカー人口が増え、上手い子が増えてきていますし、サッカーをする環境も整ってきているので、WEリーグを起爆剤にさらに充実し、もっと分母が増えると思っています。また、WEリーグの成功が今後の女子サッカーの発展、評価につながると感じています。

過去を振り返ると、L・リーグ時代では、五輪出場を逃すと企業が撤退し、スポンサー離れによってチームが減り、選手も離れたことがありました。そういったことが起きないように、WEリーグが日本の女子サッカーを引っ張ってくれたら良いと思っています。

RP:東京五輪では、なでしこジャパンが奮闘しましたが、メダルには手が届きませんでした。球ぎわの強さ、戦術などもあると思いますが、他国の技術が上がってきている印象があります。神戸監督は、どのように見ましたか?

神戸:今までは、アメリカや北欧のチームがフィジカルを生かして強かったのですが、海外でプロリーグも増え、欧州名門チームが女子のチームを持ち、そのサッカー熱に乗じて力を付けていると感じます。日本はWEリーグを起爆剤にしてもらいたい、と思います。

RP:これからどんな選手を育成していくのか。中期的・長期的なビジョンをお聞かせ下さい。

神戸:現状のユースチームはトップが近いところにあります。できるだけ早く、トップのサッカーを理解し浸透させることに着手しています。トップ、ユース、ジュニアユースが同じ絵を描けるような育成を図ることが、中期的なビジョンです。そして長期的なビジョンとして、トップチームで活躍し、日本女子代表に入ること、欧州の強豪チームにスカウトされるよう、現状に満足せず、さらに上を目指すような心のたくましさや、ビジョンを描ける選手を育てていきたいと思っています。

RP:多くの浦和レッズレディースユース出身の選手が活躍する時期がきたら良いですね。

神戸:そうですね。今はどこの国もサラリーが安いと思いますが、世界的に女子サッカーが盛り上がれば、市場価値は上がると思います。そうなった時に海外に飛び出していけるような、たくましい選手を育てたいと思います。

RP:最後に今後の目標をお聞かせ下さい。

神戸:トップチームがWEリーグの初代チャンピオンを目指す中で、サッカーにおいて質や勝負にこだわること、どんな試合でも勝利を目指す習慣づけを植え付けたいですし、トップの目指すサッカーにどんどんと近づけるように、僕自身も勉強が必要ですし、選手自身がしっかりと学んでいく姿勢をかき立てたいと思います。


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