(有賀久子)

?原直泰さんと坪井慶介さんが中高生アスリートに語る
〜N高等学校・S高等学校・R高等学校・N中等部『2025年度アスリートクラス冬季特別プログラム』に潜入取材
人は、本気や熱意に向き合うと、目の前の人の全てを真剣に受け止めようとするものだ。1時間ほどの生徒との交流の中で、この日登壇した?原直泰さんと坪井慶介さんの口調は、どんどんと熱を帯びていった。
2月3日(火)、都内。学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校・S高等学校・R高等学校(以下、N高グループ)、N中等部の【アスリートクラス】の生徒が臨む『2025年度アスリートクラス冬季特別プログラム』[リアル、またはオンライン参加]を訪ねた。
N高等学校・S高等学校・R高等学校は、2016年4月に開校した、“ネットの高校”を掲げる学校教育法第一条に定められた通信制高校だ。全日制と同じ『高校卒業資格』を取得することが出来る。(※ N中等部は学校教育法第一条に定められた中学校ではありません)
自分の自由な時間で学びの機会を得られ、単位を取得していく。新入学はもちろんのこと、高校中退・編入学、転入学、あるいは海外在住の生徒向けなど、入学のキッカケは十人十色。何かを極めるために学ぶことを犠牲にするのではなく、両方を自分のモノにするための場として、N高等学校・S高等学校・R高等学校、N中等部があると感じられた。
中でもアスリートクラスは、規定基準による審査を経て特別奨学生として入学し、学びの機会のサポートを得ている。
今回の2025年度冬季特別プログラムに会場でリアル参加した生徒の競技種目を挙げると、カヌー、サーフィン、パルクール、BMXフリースタイル[フラットランド]、モータースポーツ、ゴルフ、クラシックバレエ、テニス、空手、サーフィン、フィギュアスケートと幅広い。
浦和レッズでは、早川隼平や現在、ファジアーノ岡山に育成型期限付き移籍中の工藤孝太、日本代表GKでレッズOBの鈴木彩艶が卒業生であり、在学生は、三菱重工浦和レッズレディースに所属する?橋佑奈、熊澤果歩、平川陽菜の3人となっている。
今回のオンライン参加の中には、右膝前十字靱帯損傷でリハビリ中の平川の姿もあり、画面から笑顔を見せていた。
夏季と冬季、年に2度組まれている特別プログラムは、アスリートたちが、それぞれの世界で将来の役立つであろう知識などを身につけるための内容が組まれている。また、実際に席を並べて同じ時間を過ごすことで、競技の垣根を越えた生徒同士の交流にも繋がっている。実際、昼食休憩後には、ボードゲームを使った交流会もあり、各テーブルが盛り上がっていた。
さて、レッズプレス!!が取材に向かった目的は、午後の部に、浦和レッズOBの坪井慶介さん、N高グループ・アスリートクラスのアドバイザーを務める、沖縄SV・CEO 兼 沖縄SVアグリの代表を務める?原直泰さんが登壇するからだ。
大テーマは、『思考で勝つ』ための目標設定術。
事前に、アスリートたちにアンケートを実施し、その回答から4つの小テーマを設け、2人が対談形式で答えていった。
小テーマ
〇 プレッシャーを味方につける集中力と平常心の作り方
〇 思考で勝つための目標設定術
〇 失敗やスランプを成長の糧に変える思考法
〇 長くトップで戦い続けるための準備と心構え
FWとDFというポジションの違い、中学生時代から年代別代表に選出され続けた?原さんと、代表歴は大学生時代のユニバーシアード日本代表から、という坪井さんのキャリアの違い、それだけでも興味深い話が続いた。
ここでは印象に残ったエピソードの中から、1つずつ、紹介したい。
まず、?原さんは、今でも中学1年生の時にサッカーの公式戦で味わった緊張と悔しさが、自身が変わる出来事であると語った。それを糧にして、浦和レッズサポーターの多くが知る?原さんが出来上がったことが分かる話だ。
「中学1年生の夏、3年生の公式戦に途中から出るチャンスがあったけれど、緊張しすぎて何も出来ず、たぶん、3、4分か、5分以内に、すぐにまた交代させられてしまった。ガチガチになってしまって、うまくプレーが出来なかった。中1ながらも、もっと自分はやれたはずなのに出せなかったな、もったいなかったな、という気持ちになって。もう2度と、ああいう思いはしたくない、ああいう無様なプレーはしたくはない、という思いが強くて、そこからは、学生の時なので、ガムシャラに毎日、練習をした。それからは、高校でも、高卒でプロに入った時も、どこの年代でも、サッカーでは、あまり緊張しなくなったかな。どちらかというと、(緊張が)楽しみだな、と。ここでやってやるぜ、みたいな。そういう気持ちのほうが自分は強かった。そうやって楽しめるようにするには、毎日の練習や生活の中で、自分の競技に対して、何を積み上げていっているか。その積み重ねによって、本番での、大事なところでのパフォーマンスに繋がっていく、楽しめるようになる、と自分は思っている。競技だけではなくて、普段の生活、食事とか、プライベートの時間を、いかにしっかりと大事にするか、しっかりと確立していくか、というのは、すごく大事じゃないかなと思う」と語った。
“点をとれよ!”とFWに向けられるブーイングも、“点をとって黙らせたら、すごく気持ち良いだろうな”と俺的に思って、楽しんでいた(笑)」と?原さんらしいマインドだ。
坪井さんは、物事に向き合う時の『考え方』に対して、数多くのヒントを与えていた。
目標設定でぶち当たったら、どうしていくか、という質問では「考え方という話になってきてしまうが、高い壁があった時に、それをどういう風に回避していくか。ぶつかって壊せれば一番良いけれども、そう簡単にはいかない。登ってみるのか、脇から抜け道を探してみるのか、もしくは立ち止まって、一旦、方向を変えて、違う道から行くのか。いろいろな方法があると思う」と語り、自身がどんな考え方で取り組んでいたのかを披露した。
坪井さんの同年代はゴールデンエイジと呼ばれ、?原さんを筆頭に、小野伸二さんや稲本潤一さん、遠藤保仁さんなど、技術が高く、個性も強い年代だ。
その中で、坪井さんは「僕がよく考えていたのは、同世代にすごい選手がたくさんいて、そこに追いつくためにはどうしようか、ということ。同じことをやってもダメだし、同じ方向を向いていてもダメかなと思ったので、僕は、後ろを向いても良いかな、と思ってきた。よく“後ろを向くな” “下を向くな”と言うけれど、自分が向いている方向が前向きなんだ、と考えた。そう思って、そちらから、また違う道を探していく。そうすると、回り道をしながらも、いずれ、その壁を乗り越えていくヒントがあるかもしれない。壊せない壁に、いくら、ぶち当たっていっても、そのまま時間が過ぎていくだけかもしれない。今、向いている方向が前向きなんだ、と。決して立ち止まりはしないけれど、方向は変えても良いよ、という考え方で、いろいろと自分の中で、今、何がベストだろうと目標を考えながら進んでいった、ということが一番かな」と語りかけた。
そして、この対談の中で、最も熱っぽく語った場面が最後に訪れた。
坪井さんは「(講義の中で)方向を変えるとか、オンとオフが大事とか、短期的な取り組みを3ヶ月スパンで考えていたとか、切り替えが大事だとか言ってきたけれど、基本的には、長くトップで続けていくには、目標に達成するためには絶対量を続けることが大事。それがないと。やっぱり、“やってみた、ダメだった、次はこっち” “やってみた、ダメだった、次はこっち”じゃあ、たとえ、大きな目標を持っていても、たどり着かない。いろいろな変化や、実際にいろいろなことをやったと話してきたけれども、絶対的に、僕は人より努力してきた。努力というか、続けてきた、という自信はある。そこは絶対に必要」と核心をついた。
坪井さんは「(年齢を重ねていけば)どこかで変化を加えなきゃいけないタイミングがあったりする。そういったことにも、気が付けるかどうか。絶対的な量が必要で、でも、自分に変化が必要な時をちゃんと気付くタイミングがあるので、その気づきをちゃんと得らえるかどうか。そのためには、いろいろなことを柔軟に受け入れる体制を作っておかなきゃいけない。あちこちと、全部、方向を変えてやってみれば良いよ、じゃなくて。絶対的な努力は、絶対に必要。やった上で、方向を変えるとか、やり方を変えてみることにチャレンジしていってもらいたい」と熱量をもって伝えていた。
このあと、オンライン参加の平川陽菜を含む参加アスリートたちが、2人へ直接、質問した。
質疑応答の機会は、午前の部に登壇されたスポーツトレーナーの内藤裕也さんによる『ケガの予防・リカバリー術』の中でも設けられたが、共通して、アスリートたちが真剣に競技に向き合っていることを強く感じられる時間になった。
ありきたりの質問ではなく、自身の競技に関わる、今、聞きたい話。
3人の登壇者たちは、彼らの前のめりな姿勢に対して、経験談を出しながら、時には「正直、難しいな」と一緒に悩みながら、言葉を紡ぐこともあった。内藤さんにいたっては、事前に競技の映像を見て、特長・特性をつかんだ上で動きのアドバイスを送ったり、真摯に向き合っていた。
登壇者の話を聞いたアスリートにとって、?原さんと坪井さんの2人は、自信と誇りに満ちあふれ、眩しく感じられたかもしれないが、長いキャリアの中には、2人にも、華々しいだけじゃない場面はたくさんあった。
?原さんは新人時代、ジュビロ磐田で、“俺が、俺が”というプレーが強かった時に、ブラジル代表でキャプテンを務めたドゥンガから「1人でやりたいならば、全部、1人でサッカーをやれ!」と怒られながらチームとしてのFWの役目を身につけていったり、2002年の日韓ワールドカップの時には、日本代表のエースと期待されながらも直前にエコノミークラス症候群を発症してメンバーから外れたり、坪井さんも、新人王やフェアプレー賞を獲るなど素晴らしいスタートだったが、左ハムストリングの腱および筋肉の断裂という大怪我で手術を経験したり、代表辞退という誰もが驚く決断をしたり、なかなか試合に出られない時期も経験した。
その時々に、自身の考えやアプローチを変化させながら、プロキャリアを続けていった。
今回の学びの機会は、アスリートたちの良い刺激になったことだろう。今後、どこかの場面で、思い出してもらいたい。N高グループ、N中等部が、未来あるアスリートたちに与えたチャンス。いつしか、グループ出身の生徒がプロアスリートになり、アスリートの前に登壇する日が来るのも近いと感じた。
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