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REDSPRESS EYES|新加入選手紹介:井上黎生人|レッズプレス!!

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新加入選手紹介:井上黎生人

2024年から浦和レッズに新加入する選手を特集。第5回は、サッカー新聞エル・ゴラッソの雨堤俊祐記者に、完全移籍で加入した井上黎生人選手を紹介してもらった。

オールラウンダーなCB。兼ね備える、強さと速さ

 まずは彼の経歴から紹介したい。

 島根県で生まれ育ち、滋賀県へ引っ越して中学ではRESTA FCというクラブチームに所属。高校からは九州へ渡って鹿児島実業へ入学し、伝統校で心身を鍛えた。そこでのプレーが認められて、高卒でJ3のガイナーレ鳥取へ入団する。ルーキーイヤーの5月にJリーグデビューを果たしてリーグ戦で8試合に出場するも、2年目は出場ゼロ。3年目の夏以降に出場機会を増やして14試合に出場すると、4年目についにレギュラーの座を獲得して30試合に出場。5年目と6年目にはJ3リーグ全34試合出場を達成している。

 そしてプロ7年目となる2021年にJ2の岡山へ個人昇格を果たすと、そこでもリーグ全42試合出場を達成した。しかも途中交代なしのフルタイム出場だ。特筆すべきはCBというポジションで試合に出続けながら出場停止が無かったこと。警告の少なさは、守備対応の確かさを示す指標の一つといえる。

そして2022年、12年ぶりにJ1の舞台へ挑む京都が最終ラインの即戦力として白羽の矢を立てて、完全移籍で獲得。井上にとっては高卒からプロ8年目にして、ついに国内最高峰のリーグへたどり着いた。京都では序盤戦こそカップ戦要因だったが、夏以降にレギュラー定着。2023年も秋に短期の負傷離脱した時期以外は、レギュラーとして最終ラインを支えている。そしてプロ10年目を迎えるシーズン、ビッグクラブへのステップアップを勝ち取って浦和へ入団する。

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 次はプレースタイルについて。

 一言で言えばオールラウンダーなCBというのが京都での印象だ。対人守備や空中戦、ボール奪取、カバーリングと様々なプレーで自陣を守る。祖母がスペイン人のクォーターなのも影響しているのか、彼を見てきた指導者は強さと速さといった身体能力を評価している。180cmはCBとしては長身ではないが、跳躍力や競り合うタイミングなどのスキル、相手との駆け引きで空中戦にも強い。フィジカルコンタクトはさすがにJ1トップクラスのフィジカル系FWを相手にすれば分が悪いが、それ以外のFWには充分に渡り合える。また速さについては、京都はハイラインを引いているのだが、それが可能なのも彼をはじめとするCBがスピードを生かして背後をケアしていたからだ。

 そこに、状況判断や読みといった頭脳が加わる。身体能力に依存せず、守備のテクニックもあわせて相手を封じてきた。鳥取では柱谷哲二や森岡隆三という日本代表のキャプテンを務めた名CBの指導を受けているのだが、とくに森岡からはCBとして多くを学んだ。森岡がよく話していた「ピンチこそCBの見せ場」というマインドは、井上からも感じられた。例えば数的同数もしくは数的不利の状況でカウンターを受けた際にどのようなランニングコースや位置取りを選択して、相手の侵入経路やパスコースをボカしながら対応するのか。高卒でプロの世界へ飛び込み、3月の誕生日で27歳になる年齢で公式戦200試合以上を戦ってきた経験値の高さが随所に垣間見える。
 また、ゴール前でのシュートブロックは自らが「僕の特徴」と自信を持っている。相手にボールを持たれる、もしくはシュートに持ち込まれそうな場面でも冷静さを失わずに身体を寄せる、足を出す、そうした判断がいい。そして、それらを支える闘争心も持っている。浦和といえばゴール前の耐久力においてショルツやホイブラーテンが無類の強さを誇るが、彼らからも貪欲に吸収していくことだろう。

 ビルドアップはまずまず。技術は一定のものがあるし、敵味方の状況を見てボールを置く位置やパスを出す判断を下してサイドへ展開する、前線へフィードを送ることができる。ただ、京都がつなぐスタイルではなかったので、そこの評価は定め切れなかったというのが正直なところだ。強気の縦パスを差し込もうとする意欲はあるが、前線の受け手となる選手やその周辺の状況が良くないのにパスを出して、収まらない…という場面は散見された。それは彼の状況判断における課題ではあるのだが、チームとしてパスをつなぐことが整備されているチームなら、また違ってくるのではないかという期待もあった。浦和ではどのように攻撃に関わるのか、興味深い。

 ポジションは鳥取では3バックの中央、岡山では4バックの中央がメインだった。京都では4バックの右CBが定位置。2023年のラスト2試合は左CBに入り、時間が立つごとにフィットしていったように見えたが、本人は納得のいく出来ではなかったようだ。また、3バックに変化する際は3枚の中央や右を務めている。2022年の序盤には[4-1-2-3]のアンカーを任された試合があり、鹿児島実業でも3年でボランチを務めていたようだが、適正ポジションはやはりCBだろう。

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 そしてパーソナリティーについて。

 さわやかな外見に見合った中身を持つ好青年で、コミュニケーション能力もある。練習後、試合のハーフタイムに引き上げてくるとき、プレーが止まったときなど、よく味方と話をして意思疎通を図っていた。

考え方も前向きだ。ホセ・カンテ、アンデルソン・ロペス、大迫勇也といったFWとのマッチアップについて尋ねられても「そういう選手と戦えるのが楽しみですね」と強気の姿勢を崩さなかった。もちろん本心がどうかまではわからないが、彼の普段を見ていると、本心に近いのかなという感じはあった。

 また、京都ではどんな状況でも取材から逃げなかった。自分のミスで負けたときもミックスゾーンで足を止めて、記者の向こう側にいるサポーターへ言葉を届けようという姿勢が感じられた。

 そうした振る舞いもあり、京都では多くの人に愛された。退団は残念だが、ビッグクラブへの移籍だ。同じポジションの競争相手など試合に出るための乗り越えるべき壁はとてつもなく高いが、挑戦の道を選んだのは彼らしいと思う。J3からJ1へ這い上がった苦労人。浦和でも飽くなき向上心やオープンマインドでチームに溶け込み、成長を続けて、クラブやサポーターに認められる存在となって欲しい。


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最後に、取材対応も丁寧な黎生人くんにはいろんな話を聞かせてもらいましたが、個人的に一番心に響いたエピソードが彼のInstagramの一番上にピン止めされています。サッカーの話ではないのですが、よければ見て下さい。京都サンガでの1シーズン目の背番号が31番だったのは『3+1』だから。そして翌年は4番になりました。京都の地から、浦和でのキャリアを応援しています。

(エル・ゴラッソ京都担当 雨堤俊祐)


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