鳥取への武者修行、全治8ヵ月の重症。全てを乗り越えて果たした“埼スタデビュー”
鳥取への武者修行、全治8ヵ月の重症。全てを乗り越えて果たした“埼スタデビュー”
この鋭い反応によるシュートストップと、西川周作も高い評価を示す判断力と決断力に優れたコーチングを武器に、福島はGS第3節・広島戦、第4節・G大阪戦に続き、自身3試合連続無失点をマーク。福島は「連続とか、そういうことに興味はない」と口にするも「1試合1試合ゼロにこだわった結果。（シュートストップも）周りが見えていたから良いポジションを取れて、良い飛び出しが出来た。僕の中では計画通りのプレーだった」と納得の様子だ。
平日のナイトゲーム。さらに5月としては異例の連日の肌寒さ、日中は前日からの雨も残って観戦条件が悪かった中で、スタジアムに足を運んだサポーターの数は1万6千人。福島にとって記念すべき埼スタデビューは、ファン・サポーターがかもす、ピッチを包み込むような独特な雰囲気の中で、とまではいかなかったが、福島は自身のコールに両手をあげ、頭上で手を叩いて応えた。「（コールがあるというのは）認められてきたのかな。その気持ちに応えられたことが嬉しい」と表情を少し緩めた。
あれは、さかのぼること1年半前。福島に悪夢が襲った。
2016年10月30日。先発出場したJ3第27節・G大阪U−23戦の試合中、右ひざ前十字靭帯断裂および半月板損傷。完治までおよそ8ヵ月。シーズンを棒に振るだけではなく、翌シーズンの始動にも間に合わないことは明確だった。
この年、福島は専修大を卒業し、ルーキーイヤーを迎えていた。すぐに転機はやってくる。浦和は7月、育成型期限付き移籍で福島をJ3の鳥取へ預けた。指揮を執るのは元日本代表主将の柱谷哲二監督（当時）。“闘将”の下で福島はすぐに頭角を現し、公式戦で先発起用され、着実にJの舞台を経験した。鳥取へ渡ることに福島自身も前向きで「修行と言ってもいい。経験を積むために鳥取にやってきた。鳥取で試合数を重ね、浦和レッズに戻って出場を狙う」と話し、出場機会を増やす中で将来設計もしっかりと描けるようになっていた。
負傷する1ヵ月ほど前には、天皇杯2回戦の会場となったNACK5スタジアム大宮のピッチに立つ機会もあった。ナイトゲームのスタンドには土田尚史GKコーチや宇賀神友弥、石原直樹（現仙台）、武藤雄樹、関根貴大（現FCインゴルシュタット）、伊藤涼太郎（現水戸・育成型期限付き移籍中）の姿があり、試合前には大谷幸輝（現新潟）からの連絡や、日本代表招集で不在だった西川からもLINEで激励のメッセージを受け取ったという。先発出場した福島はセットプレーからゴールを許し、結果これが決勝点となって「自分の集中力1つで、どうにかなる問題だったかもしれない」と悔しがった。
福島は「多くの激励を受けて挑んだ試合だったから勝ちたかった。でも、僕が鳥取でやっていることを少しは見せることができたかな。もっと頑張って、浦和レッズに戻りたい」と話し、目標を再確認していた。
そんな矢先での重傷。決して平坦ではないリハビリの日々を乗り越えて、今の福島がある。
5月9日（水）、名古屋戦の試合直後。
福島は「良いプレーをするための良い準備」という言葉を何度も発した。準備の1つに身体のケアもある。怪我は、彼の意識を変えていた。それまでは太ももやふくらはぎ、そうした筋肉系の怪我に気をつけていても「膝が疲れているな」「動きが硬いな」などと自分の膝を気にかけたことはなかったという。しかし負傷以降、膝が今どのような状態にあるのかなどを日々観察するようになった。
福島は「今は膝が良い状況の時と悪い状況の時を照らし合わせて、どんな状態なのかを毎日のようにチェックしている。チームのメディカルスタッフにも診てもらって、まだ探り探りだが、どうすれば良い状態を保つことができるのかなど、気を配りながらプレーしている。膝だけではない。身体すべてのケアも、怪我をする前よりも考え、だいぶ意識は変わった」と話す。
良い準備とは、信頼を寄せるコーチの教え。そこに福島は自身が経験した移籍、怪我、そしてメンバー外……というすべての悔しさ、痛みをパワーにし、強くなった。また1人、実力十分の頼もしいGKが加わり、浦和の正GK争いは加熱していく。
（有賀久子）
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