back

REDSPRESS EYES|“なでしこブーム”の反省を生かして。“魔法”に頼らない、30年後を見据えた成長戦力|レッズプレス!!

top
“なでしこブーム”の反省を生かして。“魔法”に頼らない、30年後を見据えた成長戦力

先月、『レッズプレス!!』では女子サッカーを特集したが、今回は第2弾として、なでしこリーグ事務局広報の岩倉三恵さんに、今季からスタートした試合のライブ配信の反応について、そして、これからの普及についてお話を聞いた。


RP:今シーズンから、なでしこリーグはインターネット配信会社mycujoo(マイクージュー)とパートナーシップ契約を締結し、試合のライブ配信を行っています。ここまでリーグ戦の第2節まで行いましたが、ライブ配信の反響、反応はいかがでしょうか?



岩倉:正直、反応は思っていたより良かったと思います。JリーグではDAZNで配信していることから「試合を携帯電話などの動画で見る」という習慣が浸透しており、抵抗なく見て頂いたと感じています。なので、思ったよりも反響が良かったです。加えて「まさか、なでしこリーグで動画配信をするなんて」という意外性もあったかもしれません。それで「じゃあ、実際どんなものなのだろう」と興味を持って頂いたと思います。

RP:3月24日(土)に行われたリーグ戦第2節・日体大FIELDS横浜対浦和レッズレディース(4−1で浦和が勝利)のライブ配信をパソコンで見ました。視聴する人数は900から1000を推移していました。その数に関してはリーグとしてはどう受け止めていますか?

岩倉:「正直、もう少し欲しいな」という感想はありますが、全試合やっていますので、いろいろな試合が見られます。また、昨年8月12日に味の素フィールド西が丘で行われた、なでしこリーグカップ決勝戦のジェフ千葉レディース対浦和レッズレディース(1−0で千葉勝利)のライブ配信では、視聴者数が2000から3000となりました。そのことを踏まえると、リーグ戦で1000という数は決して悪くはないと思います。ただ、理想としては常に1500から2000くらいを維持できればと考えています。ライブ配信の数でいえば、1000という数は最低限の数かなと思います。また今後で人気カードが行われる際、どれだけの皆さんがご覧になるのかと期待して、注目しています。

RP:こうした試合の映像配信の効果としては、現在女子サッカーをしている選手にとって刺激になりますし、テクニックの教材にもなりますね。

岩倉:試合中の選手の良い動き、良いプレーを真似して欲しいですし、子供たちが選手に憧れを抱いて試合を見てくれる。そうしたことが普及につながってくれれば、意味はあります。

RP:パソコンでライブ配信を見ていて思ったのですが、いわゆる“引きの絵”で選手の動きや試合を見ることはできます。しかし、“寄りの絵”ではないため、なかなか選手の顔が分からないなと感じました。例えば、出場選手の名前の横に顔写真を掲載すれば、より分かりやすいかと思います。

岩倉:それは有りかなと思います。現在、パソコンでご覧になる場合、なでしこリーグの選手をご存知ない方が多いので、名前を同じページに置くことで分かるようにはしています。また、パソコンよりスマートフォンで試合を見ている方が圧倒的に多く、全体の6割から7割の方がスマートフォンでご覧になっています。そのことを踏まえて、スマートフォンでより良く見てもらえるように徐々に変えたいですね。また、カメラの台数にしても、現状の数で良いかと言えば、そうではありません。見慣れてくると飽きてしまいますので、これから撮り方の質を向上させたいです。映像を見て「なでしこリーグは面白そうだな」というキッカケになり、ゆくゆくは実際に会場に足を運んで欲しいですね。その意味では、3月25日に行われたプレナスなでしこリーグ第2節のAC長野パルセイロ・レディース対日テレ・ベレーザ戦(1−0で長野勝利)では、会場に3005人という多くの方が観戦にいらしていました。映像を通じて、「なでしこリーグはこのような雰囲気で試合が行われているのだ」ということが伝われば良いですね。

RP:なでしこリーグを多くの方に知ってもらう上で、今回のライブ配信は画期的で有効な試みだと思います。その中で、以前には女子サッカーの伝え方がうまくいかなかったという反省があるとおっしゃっていましたが。

岩倉:2011年、なでしこジャパンがワールドカップで世界一になり、翌12年、ロンドンオリンピックで銀メダルに輝きました。そのときは女子サッカーが盛り上がりました。しかし、16年リオデジャネイロ・オリンピックでの本大会出場を逃すと、なでしこリーグ自体の露出が少なくなり、観客数が伸び悩みました。リーグでは「どのような形で多くの人に知ってもらえるか?」を模索しました。また11年の際はいきなりブームがやってきて、準備が追いつきませんでした。

RP:つまり、“なでしこブーム”をうまく利用できなかった?

岩倉:いま、なでしこリーグの観客の年齢層を見ますと、30代後半から40代くらいの男性が多くいます。その世代に加え、情報をスマートフォンで得る若い世代のファンも増やしたいと検討しましたが、リーグではSNSをうまく使うことができていませんでした。その中で昨年、なでしこリーグでも公式ツイッターを開設しました。ただ、ツイッターはあくまでも情報を自分から取りに行く媒体なので、選手とうまく連携したいのですが、その点はまだまだな点です。また女性ということもあり、SNSの扱いが難しい部分もありました。(ワールドカップ優勝直後の)11年当時はSNSのルールがしっかりとしておらず、リーグとしては閉鎖的というか、選手を守る形でどちらかといえば消極的でした。

RP:各クラブのSNSの考え方の違いもありますよね。

岩倉:Jリーグと違って、INAC神戸レオネッサのような企業クラブがあれば、浦和レッズやベガルタ仙台のようにJリーグクラブの中にあるチームもあります。また学校が基盤のクラブもありますし、セレッソ大阪堺レディースのような高校生が多いチームもあります。とはいうものの、リーグに所属する選手は、見られる存在でもあります。SNSなどの使い方さえ注意すれば、うまく選手をピックアップできると考えています。リーグや試合の告知・宣伝だけでなく、「なでしこリーグにはこんな選手がいるよ」と選手自身と共にアピールしながら、見てくれた方が「じゃあ、この選手を見に行ってみよう」となってくれれば良いかなと考えています。また、SNSの取り扱いに関しては新人研修内で上手な使い方の指導を行っていますし、各クラブ向けにSNS講習会を開いて、「こんな使い方をしましょう」、「こうした効果があります」と伝える一方で、「こんな危険もあります」と使い方について改めて伝えています。なでしこリーグに所属する選手の多くはプロではない選手が多いですが、伝える事に対しては、プロとして振る舞って欲しいなと感じています。



RP:ライブ配信、そしてSNSでの働きかけのほかに、なでしこリーグとして新しい試みはありますか?

岩倉:今年で言いますと、なでしこリーグのトップパートナーであるPlenus様と組んで、リーグ主導で女の子を対象に全国各地でサッカークリニックを開催します。普及に関しては地元に根付いている地域のサッカー協会と連携し、なでしこリーグもうまく活用してもらいながら活動を行います。今年が初めての試みなので、どれだけできるのか、とても楽しみです。

RP:女子サッカーが特別盛んな地域などありますか?

岩倉:例えば、広島やINAC神戸のある関西地区。やはり関東全体は群を抜いて女子サッカーの人口は多いですね。

RP:アメリカですと、女の子はスポーツの入り口としてサッカーをやったあと、様々な競技を行うようですが、日本では女子サッカーの普及とともに他競技を行うなど、女子スポーツの底上げにつながるとまた面白いですね。

岩倉:20年前はサッカーをやっている女の子がほとんどいませんでした。それがいま、決して珍しいことではなくなってきました。これまでの歳月を考えれば、今すぐに大幅に女子サッカー人口を増やすということは難しいと思います。ただ、サッカークリニックの開催など、地道に働きかけることで10年後、20年後を見据えて続けていかないといけないと思います。「1回やってダメだから、やめよう」では意味がなくなってしまいます。そのことは11年のワールドカップ優勝、12年のオリンピック銀メダルを経て、経験しました。これをやれば絶対に大丈夫といった“魔法”はありません。たとえ小さくとも考えられることを続けていくことで、5年後、10年後につながっていくと感じています。なでしこリーグは今年30周年。そこをキッカケに30年後に向けて、挑戦し続けることが普及に大きくつながっていくと信じています。



(佐藤亮太)

後日、岩倉さんによれば、第2節の日体大FIELDS横浜対浦和レッズレディースのライブ配信の視聴者数は約3,000人だったとのこと。岩倉さんは「このくらいの数を望んでいたので良かったかと思います」と語った。

なお、浦和レッズレディースは4月8日(日)浦和駒場スタジアムで、なでしこカップ第2節・日体大フィールズ横浜戦午後2時から戦う。

現在、公式戦3連勝中の浦和レッズレディースをぜひ、その目で見て欲しい。
 
・・・・・・

ログイン・会員登録はコチラから
すべての記事をご覧いただくには、会員登録が必要です。
※既に会員登録済みの場合、ログインを行うことで閲覧可能となります。



(c)REDS PRESS