(有賀久子)
工藤輝央SD「一戦必勝」と「秩序と自由」移籍選手の背景を語る
始動日のトレーニング後は、さいたま市桜区にある下大久保諏訪社で安全必勝祈願を実施した。その後、クラブハウスで工藤輝央スポーツダイレクターが取材に応じた。
Q:新シーズンの目標を教えて下さい
工藤SD:今日の朝、スタートのミーティングでも話しましたが、もちろん、リーグの最終的なモノはありますが、昨シーズンも、“勝ち点を落とした”という風に考えているので、『一戦必勝』というのは伝えました。勝ち点、どんな相手でも3ポイントしかないので、3ポイントを積み上げていく。その結果が優勝なので、一戦必勝でやっていきましょう、と。トーナメントであれば、勝たないと次には進めない。だから、どんな形でも良いから勝利する、という話をちょうどしたので、そういう風に考えています。
Q:昨シーズンはAWCLがあって、日程的な厳しさは感じましたか
工藤SD:正直、昨シーズンの日程を見た時に、僕自身の感覚は、そんなに感じませんでした。というのも、皆さん、ご存じのように、男子トップチームであれば、過密日程がたくさんあるじゃないですか。それに比べたら少ないので、そこまで影響はないんじゃないかと思ったものの、実際には、たぶん、レディースの選手たちは慣れていない。1週間で3試合とか。その意味で、少しギャップがあったな、と思っています。
Q:日程を含む準備の面で、昨シーズンよりも勝たなければいけないという環境であるのは間違いないと思うが
工藤SD:おっしゃる通りです。1週間しっかり準備できて試合に臨めるサイクルが続くということで、昨シーズンよりも良い準備ができるはずだと思っています。
Q:チームを長く支えてきた選手が移籍することになりました。経緯について伺えますか
工藤SD:それぞれ、いろいろなパターンがありますけれども。まず、基本的に、昨シーズンにもお話ししたと思いますが、育成出身者が海外クラブにチャレンジしたいというのを強引に止めるということはしたくないですし、彼女たちが海外に出て活躍すること、清家(貴子)さんの移籍発表後にも話したと思いますが、そういった形がベースにあります。
そういった中で、たとえば、遠藤(優)選手は契約も残っていましたし、彼女自身が自分の年齢を考えた時に、まさか、海外からオファーが来るとは思わなかった、というところが、まず、あります。彼女もいろいろと考えてくれて、チームに残って貢献してくれること、一方で、自分の年齢を考えた時に、まさか、そんなチャンスが来る、とは。しかも、彼女の中でもそうですし、側から見ても、良いリーグとされているところで、自分が挑戦できる可能性がある、と。話し合って、快く送り出すという風に決めました。まだ、交渉中で、最後の部分はまとまっていないのですが、しっかりとクラブにも置いていってくれることも置いていってくれますし、プロの世界として、それも非常にありがたいことだと思っています。
石川(璃音)選手は、昨シーズンの始まりの時点で、5クラブからオファーが来ていました。もともとJFAアカデミー出身で、海外クラブへの思いも強くて、チャレンジしたいという気持ちが彼女の中にあった中で、正直、昨シーズンは残ってくれました。AWCLもありますし、浦和でキャリアを始めて、浦和で勝ちたいと言ってくれて、僕らも残って欲しいというお願いもしましたし、そういった中で残ってくれて、彼女も、今回のタイミングは、悩んでいました。やはり勝てなかった、勝って出ていきたかった、というところで。今回来たオファーなど、いろいろなものを総合的に考えた時に、このタイミングでチャレンジさせて欲しい、ということだったので。それは去年、約束していることだし、気持ち良く送り出してあげなきゃいけない。彼女も、クラブに残してくれているものがありますので、非常に感謝しています。
塩越(柚歩)選手に関しては、プロの世界なので、我々も、自分たちの基準、クラブの基準で選手を査定していく中で、日テレ・東京ヴェルディベレーザさんの方が良い条件だったということだと思います。ベレーザさんには、ベレーザさんの査定基準もあるでしょうし、評価基準もあるでしょうし、補強の戦略もあるでしょうし、そこが、我々とは合わなかった、ということが1つだと思います。もちろん、慰留はしましたし、条件も提示しましたが、残念ながら、プロはこういうものなので、うまくまとまらなかった、ということになります。
栗島(朱里)選手に関しては、数年前から、彼女自身が、このクラブで、中学1年からずっとレッズランドに通っていて、自分の年齢を考えた時に、ここしか知らないという話をしていました。話を何回も重ねていく中で、たとえば、僕も、このクラブにお世話になっていますけど、「工藤さん、(他に)2クラブに行きましたよね。よそのクラブに行った時に違いを感じませんでしたか」と聞かれ、「こういう違いがあるよ」とか、普通に雑談でも話をしてきた中で、自分の人生のビジョンとして、「海外へ行きたい」「海外で生活もしてみたい」という話から始まりました。彼女も、割と早いタイミングから、そういうことを意識していたので、シーズンの終盤の時には、もう、その方向性になっていましたし、それはもう、彼女の人生のビジョンと言われたら、応援するしかありません。今まで貢献してくれた選手なので、気持ち良く送り出してあげたい、ということになります。
(猶本)選手に関しては、彼女の選手としてのキャリアと、残りのキャリアと、クラブの方向性、クラブの考えというのを対話を重ねた中で、今回の決断に至った、ということです。契約内容になるので、そこまで詳細には話せませんが、彼女も、自分の残り少ないキャリアでチャレンジしたいこと、達成させたいことがあるとなった時に、それは彼女が選べることです。彼女も同じく貢献してくれた選手ですし、彼女が高校を卒業して入ってくる時に、僕が福岡に行って、口説いた選手でもあるので、彼女のことも応援したい、ということです。
竹内(愛未)選手に関しては、育成出身で、なかなかチャンスがつかめませんでした。そういった中で、彼女も高校の時も含めて、英語の勉強などもしていて、海外を含めたトータル的な中で、今は、次の道に進んでいる、というところになります。
Q:チーム作りとして考えていることや選手に期待していることをお聞かせ下さい
工藤SD:長年引っ張ってくれた選手たちが、このタイミングでチャレンジしていくということで、不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんけど、昨シーズンのスカッドでも、若い選手たちがいるようになっていて、たとえば、藤?(智子)選手はデビューしてあれだけ結果を出したところもありますし、試合には出られませんでしたけれど、秋本(佳音)選手も(年代別)代表で活躍しています。良い競争が生まれることは間違いないと思っていますし、そこは、そんなに不安には感じていないです。
新しく入ってくれた選手もいますけども、加藤(千佳)選手に関しては、ウチの育成出身で、ウチのことも、もちろん、知っていますし、先ほどの栗島選手の話ではないですけど、加藤選手は、他に2クラブを経験して、ウチの良さが改めて分かった、という話もしていました。そして、大好きなクラブで、もう1回プレーしたいという気持ちを訴えてくれました。プラス、彼女も、もうベテランになって、育成出身が多いチームで、「後輩たちに伝えられることが、自分にはあると思います」と言ってくれて、今回、加入して頂くことになりました。
榊原(琴乃)選手は、見ていれば、皆さんも分かると思いますけど、ノジマステラ神奈川相模原であれだけ活躍されて、高卒でWEリーグに入ってから、ほぼほぼフルで長野からずっと出続けている選手です。まだ年齢も若い。彼女の意識レベルがすごく高くて、自分がどういう選手になっていきたいか、というものが、明確にあって。そういう選手なので、レッズレディースにも貢献してもらいたいですし、彼女のビジョンに、こちらも貢献したいと話をして、入ってもらいました。
あとは、進んでいるものがあって。昨シーズン、僕自身が「外国籍の選手は、まだ、考えていません」という話をしましたけど、今シーズンのタイミングでは考えていて、今は進んでいます。なので、近いうちに発表できることもあるでしょうし、少し先に発表になることも含めて、今は進んでいることがあるので、それはもう少し、待ってもらえればと思っています。
Q:外国籍選手を入れたほうが良いと考えられたのは、どのようなポイントだったのでしょうか
工藤SD:なぜ、そう考えたかというと、AWCLのグループステージで、Ho Chi Minh City Women’s FCと対戦した時に、アメリカ人の選手が3選手、出ていました。その前の予選ステージでは、元レッズレディースの選手が、アジア圏や中東のチームに補強された選手がいるんですよね。そういった中で「FIFA女子クラブワールドカップを目指してやっていきます」と皆さんの前で話していますけど、実際に身近で補強しているクラブが、ある程度、結果を出したというのはAWCLで戦って思いましたし、Ho Chi Minh City Women’s FCの選手たちについても、彼女たちがいるから苦戦したところがあったんです。たぶん、それが加速すると思います。より女子サッカーの世界でも。そう考えた時に、早めに着手しなければ、選手もスタッフも、クラブとして、経験値が上がっていかないのかなと思っています。
外国籍の選手に入ってもらうことで、Jリーグと同じですけど、普段、経験しない間合い、リーチの長さもそうですし、タイミングとかの違いもあります。今回の、FIFAクラブワールドカップを見ていても、世界との差みたいなものが出ていますけど、やっぱりJリーグだと打たれないところで打たれるとか、3戦目のミドルシュートもすごかったじゃないですか。なかなかJリーグではない。そういった意味で、日常のところでも、チームに入ってもらってトレーニングすることによって、レベルが上がっていくところもありますし、もちろん、補強的なところもあるし。世界と考えた時に、この時点で、補強していくことを考えなければいけないと思って、今は、そういう風になっています。
Q:クラブとして、チームを若返らせるところもあるのでしょうか。
工藤SD:クラブのビジョンとしては、もちろん、続けていかなければいけません。同じメンバーで戦えるなんてことはもちろんないですし、実際に僕自身がいた2021年の男子トップチームの選手、スタッフで、今、誰が残っていますかと言った時に、天皇杯で勝ったところから続いて、この間のクラブワールドカップまで行っていますけど、選手もスタッフも、だいぶ変わっていますよね。なので、クラブは良い意味でも変わっていかなければいけません。常に変化し続けなければ、後退していくと思うんですよ。なので、世代交代も1つのことで、それは選手にも面談した時にも伝えていることでもあります。でも、それって、別に16歳だろうが、30歳だろうが、勝負の世界なので、パフォーマンスが良い人が試合に出るだけだと思いますけど、クラブとしては、もちろん、変化を続けなければいけないという意味で、そういうことも考えています。
Q:昨シーズンのラスト3試合のパフォーマンスは、どのように感じましたか。また、それを受けて、新シーズンに向けて突き詰めていかなければいけない戦術的な課題はなんだとお考えでしょうか。
工藤SD:最初に言った通り、リーグは、勝ち点3の積み重ねなので、どれかのゲームが決定的に、ということはないと思うんですけど。一方で、シーズンの流れってあるじゃないですか。昨シーズンで言うと、まずは、前半戦で勝ち点を逃した試合は、非常に大きかったと思っています。それが、結果的にギリギリな状況になり、勝ち点を競う状況になった時に、たぶん、過去に経験したことがない、メンタル的に追い込まれる状況の中で試合を迎えなければいけませんでした。
その前のシーズンというのは、一番最初にINAC神戸レオネッサさんが優勝した時もそうですけど、最後の方、何節も1位で走るんですよね。ウチが優勝したときもそうですけど。その前に、みんなが勝ち点を落としていって、(1位で)走ると。最後の最後まで、ああやって上3つくらいで競うのは初めてのシーズンだったと思います。その意味で、ターニングポイントになったのは、ベレーザ戦とアルビレックス新潟レディース戦というのは外せなくなってくると思います。新潟戦は、周りの結果も含めて、勝っていれば、首位だった、というのが、最終的なモチベーション、メンタルの維持というところがパフォーマンスに繋がったのかなという風には思っています。
そういう時に違いを出せる選手とか、違いを生める状況に、クラブ、我々自身もそうですし、選手もそうだし、コーチングスタッフもそうだし、そこに、まだ伸びしろがあるんじゃないかと思っています。なので、そこにチャレンジしましょう、というのが、今シーズンになります。
Q:堀孝史監督のサッカーの大枠は見えてきていますが、細かい部分のすり合わせが、間に合わなくて勝ち点を積めなかった、という印象がありました。
工藤SD:おっしゃる通りだと思います。昨シーズンで、堀監督にやって頂いて、大枠の提示は終了しているところもあると思うので、今シーズンは、キャンプなど、事前に準備もありますし、そこからどういう風に変化をつけていくか、というところが、大きなテーマになります。たとえば、ポジショニングにしても、スタートポジションのところは、みんな理解している、そこからどうやって変化していくんだ、というところです。秩序と自由をどうバランスを持ってピッチ上で表現できるか、というところが、カギになると思っています。
Q:堀孝史監督のサッカーはダイナミックなところがあり、蹴るパスの距離も、選手間の距離も、WEリーグの中では広い方だと思います。そこについては、工藤SDのポジションからは、どのように選手に働き掛けて、意識付けさせていきたいですか。もしくは堀監督との連係の中で。
工藤SD:堀監督とシーズン終了後に話しましたけど、ダイナミックな方からアプローチして、距離を近づけるところと、広いところというのが作業になってくるので。昨シーズンは、その距離を近づけるところがうまくいかなかったと思っています。ダイナミックなところに少し囚われすぎた、というか。なので、そのダイナミックさと、距離を近づけた局面の違いというのが、今シーズンのテーマになるので、そこに取り組んでもらうのが1つあります。
ただ、ダイナミックさがないと、絶対に世界で勝てないと、僕は思います。ショートパスだけでも勝てないし。なので、さっき言った、秩序と自由というところで、選手たち、当たり前ですけど、最低限のルールの中で、自由にプレーして良いのがサッカーで、だから僕は、世界で一番魅力があるスポーツだと思っていて、これだけ皆さんが見ていると思いますけど、その自由の部分というのが、昨シーズンに堀監督になってからは、ちょっと少なかったですし、選手に伝わりきらなかったと思います。クスさん(楠瀬直木前監督)の時は自由が多くて秩序が少なかった、そこのバランスを取りたいという風に思っています。
Q:プレシーズンでアメリカツアーを実施するのは、世界で戦うことを見据えた上での取り組みなのでしょうか。
工藤SD:そうですね。たまたま、いろいろなタイミングがありましたけど、アメリカはご存じの通り、昔も、今も、強豪国の1つです。エンターテインメントとしても、アメリカは、いろいろなスポーツで成功しています。そういったことを踏まえた時に、アメリカで、クラブとして、選手もクラブスタッフも、全体の経験値を高める、それが2028年から始まる女子クラブワールドカップにも繋がると思っていますし、アジアの戦いにも、もちろん繋がっていくと思います。そういう経験値を増やすのは非常に大事だと思って、アメリカツアーを組んだのが、大きな理由の1つです。
あとは、田口(誠)社長も『世界へ』というところを強く言われています。昨シーズン、レディースジュニアユースが『NIKE PREMIER CUP 2024』という世界大会に出て4位だったのですが、同年代のアメリカのクラブと試合をした時に、ダイナミックさが全然違いました。
アメリカ女子代表とは、(池田)太さんのなでしこジャパンも対戦したと思いますけど、アメリカは、育成年代が変わったんですよね。アメリカは、一時期は、世界で勝ちきれないという時期にトレセン制度を変えて、今、いろいろ試行錯誤して取り組んでいます。そういったものも芽が出始めて、若い選手がどんどん出てきているのもありますし、プロリーグでも結果も出しています。そういった意味で、トータル的なことを踏まえて、アメリカに行くことになりました。
あとは、女子クラブワールドカップに出た時に、集中開催とは限りません。移動していくことになるとは思うので、今回のアメリカツアーも、2、3日トレーニングして、試合をしたら、移動して、ということで、3試合を組んだ、というところです。
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